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 ここでは、仲裁申立ての際に重要な根拠となる商標権の効力に制限がある場合の特殊な事例をご紹介したいと思います。

 申立人はアメリカのIdeation Unlimited社で1975年にイギリスと1976年にアメリカで“Prescription Cosmetics”という商標を登録しており、世界中の多くの国々でその商品を提供してきました。ところが、第三者が2003年にprescriptioncosmetics.comを登録し、リンクを載せて化粧系の第三者のサイトへの転送を実施していました。Ideation Unlimited社がこの登録者に対して異議申立てを起こしたのは2008年の9月でした。

 UDRPでは、かかる仲裁手続において勝利するためには、3つの要件すべてを申立人が立証しなければならないことがポイントになります。つまり、仲裁案件では申立人の主張が妥当でも、必要な証拠が提出されない場合には、その主張が認められず、仲裁のパネルによって却下されてしまいます。仲裁では裁判より疑念が残らない証拠提出を要求されますので、注意が必要です。

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 Ideation Unlimited社は、“Prescription Cosmetics”について3つの商標を登録しているものの、それらはすべて図形を含む左図の商標でした。とはいえ、その商標中には文字も含まれていますので、問題のドメインとの混同/類似の判断は、“Prescription Cosmetics”という文字部分によっても行われるべきでした。

 ところが、本件では申立人は、以前アメリカにてその商標中の“Prescription Cosmetics”という文字への効力を意図的に放棄し、またイギリスでも商標中の“Prescription”という文字への効力を放棄していました。つまり、本件での判断は“Cosmetics”という文字をもって行わなければならなくなりますが、ご存知の通り、“Cosmetics”は一般名称であるため、その識別性がありません。

 他方、本件のように文字についての効力を放棄していたとしても、コモンロー上では申立人は自分が当名義で商業活動を行っているため勝利する要素はあったのですが、残念ながらコモンローに基づく主張・立証はWIPO(世界知的所有権機関)ではなされなかったため、判断の対象になることはありませんでした。

  登録者に対する当商標を使用する権利の不存在や明らかな悪意という要件は立証されましたが、申立人が商標を所有していたとしても、その構成要素である文字の効力を放棄しているので、本来ならばコモンローによる判断が導かれます。しかし、本件は商業活動をはっきりと主張する証拠の不足という理由で却下されましたので、それらをすべて充足した再度の申請が成功に終わる可能性はまだ残されています。商標権の効力についての問題が存在している場合には、コモンローに基づく主張も視野に入れることを強くお勧めいたします。

 本件を見ると商標登録のアップデートはどれほど重要であるかということと同時に、権利の放棄の影響について考えさせられます。本件のような状況に直面したときにはWIPOに仲裁申立てをする前に、商標に対するリカバリー手段やコモンローで認められる商業活動上の権利を主張・立証できるプロの弁護士の作業の必要性を明らかにします。ブライツコンサルティングでは事件を深く分析することを重視し、パートナーシップを結んでいる優れた弁護士と連携しながら事案に最も適切なアプローチをご提案いたします。

調査員:Ksenia Golovina

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【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社ブライツコンサルティング 担当:矢島崇成
E-Mail:dn@brights.jp
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